鈴木 義幸インタビュー



#3   鈴木 義幸 
株式会社コーチ・エィ 取締役社長

VISIONARY STORY
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Prologue -「人を知って自分を知る」

現代社会の荒ぶる波を乗りこなすため、常に最高のパフォーマンスが要求されるビジネスエグゼクティブには、そのメンタリティを支える"コーチ"がいれば百人力だ。対話によって目標達成のサポートをするコーチングの概念を日本に持ちこみ、軌道に乗せた立役者が鈴木義幸。
今の立場を確立するきっかけとなった原体験、師やコーチングとの出会い、そこから生まれた価値観。その背景にはやはり挫折があり、リスクを伴う選択があった。多くのエグゼクティブをコーチしてきた彼だからこそ感じる、"人がもつ可能性"とは何だろうか。

interview / Junpei Ota, Jun Tatesawa, Kazuhisa Fujita
text / Natsumi Nakamura
photo / Kazuhisa Fujita

Chapter 1 - アメリカに魅せられて。

鈴木 義幸が語る「アメリカに魅せられて。」

僕のいた高校は、進学先が東大から専門学校まで、バリエーションのあるユニークな学校だったんです。僕はラグビー部で、3年の時はキャプテンをしていました。自分で言うのもなんですが、勉強の成績は結構良かったんです。勉強もスポーツもやって、仲間の前では面白いこともしちゃう、っていうキャラで通ってました。僕の代までずっと1学年1人は東大が出ていたんだけど、それはずっとラグビー部からだったんですね。そんなこともあって、僕の代では僕が本命だ、って周りからは言われてたんです。けど東大は全然ダメだった。なんと1次で足きり。これが、高校時代のわかりやすい挫折ですね(笑)。慶応大学に進学したんですけど、3年生まではウダウダしてましたね。以前から演劇に興味があって、日本舞踊とラグビーの同好会に明け暮れてはいたものの、なんとなく中途半端なものを感じてました。演劇もコミットしてない感じ、ラグビーも中途半端。3年で有名ゼミを受けたものの、受からない。このとき、「このままではいかん」と思って一念発起、留学しました。1年間ワシントン州に。友達とラグビー部を作ったり、アメフト崩れのとんでもなくでかいアメリカ人たちを集めてチーム作って試合もしました。この時期は、気が狂うくらい楽しかったですね。ここに住みたい、もう一生アメリカにいたいと思った。完全にアメリカに魅せられちゃいましたね。

Chapter 2 - うまくいかない中で見えてきた道。

鈴木 義幸が語る「うまくいかない中で見えてきた道。」

留学の経験から、「アメリカ」「英語」というのが自分の中で核としてできてその上で世の中に影響を与えられる仕事を…って考えて、広告代理店の電通・博報堂・マッキャン&エリクソンに挑戦しました。電通は最終面接で落ちて、博報堂に至っては青田刈りの最終でダメ。このときは東大に落ちたとき以上にショックでしたね。もうめちゃめちゃしびれましたね。全人生否定されたような感じ。それで結局マッキャンに行きました。当時、一世を風靡していたCMをつくっていて、かつ英語を使うってことでいい会社に入ったなと思ったんですけど、配属されたのが毎日CMの素材を封筒に詰めて送るっていう部署だったんですよね。時間は余るしモチベーションも下がってしまった。
そんなときに、友人が面白いセミナーがあるよ、って誘ってくれて。それがコーチ・エィ現会長の伊藤が主催していたコミュニケーションセミナーだったんです。実はその時の担当トレーナーが今のコーチ・エィの役員、市毛なんですけど、「あぁこの人みたいになりたいな」ってすごく思ったんですよ。プロフィールを見ると上智大学院で臨床心理学を学んでいる。そうか、市毛さんになるには臨床心理学だ。やらなければ、と。

Chapter 3 - アメリカで気付いた僕の強み。

鈴木 義幸が語る「アメリカで気付いた僕の強み。」

会社はつまらない、臨床心理学が気になる、またアメリカに行きたい。そこからは早かったですね。うまい具合に日本語を教えながら大学院に通えるプログラムがあった。仕事を辞めるリスクはあったけど、もう何の迷いもなく退職して留学しました。セミナー主催者だった伊藤とは、留学中もずっと連絡を取り合っていました。授業以外でもいろいろ学んできなよ、スポンサーになるよ、とまで言ってくれて。
留学中、インターンで臨床心理士として州立女子刑務所で心理カウンセリングをしたのがいい経験になりました。第1級殺人の受刑者の隔離病棟では子窓越しに囚人と話すんですけど、割った蛍光灯で看守が襲われたことがあるからあんまり近づかないで話してね、って言われたりとか。映画で見るようなことは全部起こってましたね。
そこで気付いた僕の強みは、何を聞いてもあんまり深刻にならないこと。経営者の方からは、一般的に深刻だと思われることをたくさん聞きますが、そりゃあ人生色んな事が起こるよね、でも長い目で見れば地球もいつか終わるし、人もみんないなくなっちゃうし、何かあったとしても、もっと大きな視点から見たら何も変わってないよ、っていうのがどっか自分の中にあるので。エグゼクティブな人たちが深刻なことでも話してくれるのは、こちらが深刻にならないからかもしれませんね。

Chapter 4 - 人は愛嬌。

鈴木 義幸が語る「人は愛嬌。」

会長の伊藤は、間違いなく「師」にあたる人ですね。僕が帰国した時、伊藤が「コーチング」っていうのを日本でやろうよ一緒に、と誘ってくれました。臨床心理学と比べると学術的な歴史がないとは思ったものの、目標実現を対話でサポートするっていうのはすごく魅力的で。自分がパイオニアになれるというのにも惹きつけられた。それがスタートでした。
伊藤と初めて会ったときは、あまりの洞察力に、スーパーマンに見えました。人にモチベーションを与えるとか、人を動かすということに関して、これ以上の人はいないんじゃないかなって。だからずっと緊張関係が続きましたね。何から何まで見透かされているような気になっちゃって。最初の頃は自分を裸にされるような感覚が常にあって、正直仕事は非常にやりづらかったですね。
でも最終的に人って愛嬌なんですよ。有能な経営者になるために譲れないものを何か1つ挙げろって言われたら、僕はやっぱり愛嬌だと思います。「愛嬌」って、最終的にお腹を見せられるかってことだと思うんですよね。自分ではかっこつけてても、「かっこつけ通せてないじゃん(笑)」って人に言わせる感じ。それが経営者には大事な部分なんじゃないかなって思います。

Chapter 5 - よく会い、よく読み、よく挑戦する。

鈴木 義幸が語る「よく会い、よく読み、よく挑戦する。」

とにかくいろんな人に会った方がいい。業界、国籍、老若男女問わずとにかくいろんな人と。自分で考える事には限界がある。自分の頭だけで将来のビジョンを作り出そうなんて思わない方がいい。いろんな意見や考えを知る。そのためにも、いろんな人に会う機会をつくりながら、見た目や顔つきとかでこの人ちょっと違うなって思ったら早々に引き上げる。これは自分のセンスですね。ただ、やっぱりいっぱい会わないとセンスは磨けないし判断力もつかないから、まずは場数かな、と思います。
それと同じで本も乱読がいい。ジャンルを問わず読みまくる。読書って、自分の考えを肯定する本を選びやすい。もう分かってることを納得したくて読む。でもそうじゃなくて、否定も含んだ、いろんな人に会う、いろんな本を読むっていうことかな。あとは、絶対何かリスクを取った方がいい。やりたくないことをやるってことが大事。会いたくない人に会うとか。これやったらちょっとドキドキしちゃうよねとか、なんか変な汗をかいちゃいそうなことにたくさんトライする。No pain, no gain。これはあると思いますね。

Chapter 6 - 「好きにやれ」を世界中に届けたい。

鈴木 義幸が語る「「好きにやれ」を世界中に届けたい。」

人はなにかをクリエイトする能力を持っている。でも自分でそれを制限して可能性を抑えてるところがある。だから人をクリエイティブにしたいってすごく思ってるんですよね。
魅力的な経営者の方って普段もなにかクリエイトしてるんですよ。たとえば絵を描いたり音楽したり。僕自身もクリエイトすることが大好きで、思いつくことが大好きで、それを経営にも生かしてる。
だからこそ、周りの人間がいろいろなことを思いつくような状態にしたいっていうのが根底にありますよね。ポリシーがあるとするならば「こうでなければならない。は絶対ない」だろうと。物事を決めつけてしまうことで、実は、可能性を摘んで、クリエイションを絶ってる。たとえば、「僕は正直だ、でも時には嘘をつく」っていうパラドックスが受け入れられるかどうかが人としてすごく大事で、それこそが人間だと思う。だから僕は、周りの人が自分で制限してるものを取っ払う媒介者になりたいというか、好きにやれって言ってあげたい。そしてこの「好きにやれ」っていうメッセージを世界中に届けたい。好きにやれる人が集まって、でも調和が取れてるっていうのがやっぱり一番いいですね。そんな会社を増やしたい。
好きにやれじゃ野望になんないかな(笑)。

arrangement / osica MAGAZINE

【プロフィール】
name /鈴木 義幸
birth / 1967年
career / 株式会社コーチ・エィ 取締役社長
日本にコーチングの概念を持ちこみ、ビジネスとして確立させた立役者。延べ300社以上、200人を超える経営者、管理職にコーチングを実施。多くのエグゼクティブを指導してきた彼だからこそ感じる"人が持つ可能性"とは何だろうか。
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