visionary story 2012.09.09
利己的なモチベーションで、利他的なことをする。
「難しく意味づけしようとするから続かない。自分が楽しめること、10年後も続けられることをすればいいんですよ」と話す波房。大手広告代理店でチームマイナス6%のプロジェクトを手掛けたのを初め、「共感動力」というマーケティングメソッドを提唱し、大切な人を世界で一番幸せにできる人=ロマンチストを増やすことで社会をハッピーにしていく日本ロマンチスト協会や、官公庁を巻き込んだ熱中症予防声かけプロジェクトなど数々のソーシャルムーブメントを成功させている。その成功の裏側には、まず自分が一人の参加者として楽しもうという彼の信念がある。
彼のメディアに対する新しい考え方、彼を動かし続ける原動力に迫る。
―あなたの夢は何ですか。
子供のころは、やりたいことを素直に答えていたはずの問い。しかし、いつからか周りの目を気にして自分をごまかし、「作り物の夢」を答えてしまう。世の中で認められる夢、賞賛される夢を持つことが正しいと感じてしまう――。そんな人が溢れる中、確固たる信念を持ち、ぶれることなく前に進み続けている人物がいる。日本ロマンチスト協会をはじめ、数々のソーシャルムーブメントを仕掛ける波房克典だ。
「利己的なモチベーションで利他的なことをするのが大事。自分がやりたいと思えることじゃないと続けられないでしょ」と笑顔で語り、「ストーリーテラーとして生きる。そして、死ぬ」という野望に向かう彼の根本にあるのは4つの明確化という考え方だ。
1.漠然とした夢を“意志”に。
2.ゴールに辿り着くためのステップを具体的な“目標”に。
3.目標と今の自分の差を埋めるためにすべきことを“シナリオ”に。
4.そして、自分の夢が絶対に叶うと信じる“信念”を持ち、一連のプロセスを明確にする。
波房の物語は、まさに4つの明確化に沿って進んでいく。始まりはワーキングホリデーで滞在したカナダでの経験。一つの出会い、偶然が彼の生き方を大きく変える。さっそく物語の1ページ目をめくってみよう。なかなか一歩を踏み出せずにいる人にとって、きっかけを得られるストーリーがあるはずだ。


―夢を明確な“意志”に変えるきっかけをカナダで見つけたと伺いました。
「ワールドワイドじゃない」と彼女に振られたのが悔しくて(笑)、大学院卒業後にワーキングホリデーに行ったんです。滞在先のバンクーバーで珍しくオーロラが現れた日に、うっかり寝て見過ごしてしまい。本当に悔しくて絶対に見たい!とオーロラツアーガイドの仕事を探したけど、見つからない。お金も尽きかけたときに「次の現場に来るか?」と誘ってくれたのが、働いていたニジマス養殖場のおじさんでした。
養殖場で働いているある日、「ちょっと来い」と呼ばれて行くと、北の空にオーロラがぶわーっと広がっていて。「俺はオーロラが見えるとは教えなかった。でも、お前が本当に見たいから叶ったんだ。目標がぶれなければ、道はどうあれ辿り着ける」と彼に言われました。驚きましたね。やりたいと思い続けていると、向こうから状況が訪れると教えられました。
彼から学んだもう一つ大切なことが時間の流れ。過去の因果関係で今が形成されるのではなく、実現したい未来があって、今やるべきことが決まる。そして、その積み重ねが過去になるから実現したいことをまず決めろと言われたんです。それまでアルバイトも長続きしない自分は、落伍者でまともに働けないと思っていました。夢も持たず、働くことから逃げ回って。でも、未来設定の重要さを教えられ「厳しい養殖場の仕事をやり遂げたことを自信にしろ。何でもできるから」と言われたことで自信が持て、夢を決めようと思えたんです。
―どんな意志を持って、日本に戻られたのですか?
自分の考えた物語をアニメにすること。自分が生きた証を残したいと考えました。でも、今の僕にはそのために必要な能力がない。だから、ライティング力や編集スキルを学ぶことを“目標”にして、編集プロダクションに入社しました。みんなに追いつくために必死になって人の3倍働いて、3倍走り続けて。仕事をしながら、自分でWebサイトも作っていました。
―何となく…と仕事をしている人も多い中、目標があると働き方が違いますね。
世の中の大人、社会人って僕が思っていたほど働いていないんだなと感じました。大学院生のとき、大学を卒業後すぐに就職した周りの人たちに「学生はいいよね。社会人は大変で…」とよく言われたけど、そんなことないじゃんって。社会人や正社員が偉いという考え方があるけど、違うんですよ。肩書とかじゃなくて、自分と向き合いながら何かに本気で取り組んでいる人が偉い。本気か、本気じゃないかで勝負がつくんだなと思いました。
―その後、日本環境協会へ行かれていますが、環境に興味があったのですか?
実はまったくなくて(笑)。結果的にはそこで得た知識が次につながるのですが、次の目標であったWebの勉強をする時間を作るために定時で働ける仕事を探したんです。アニメの原作を作るために、物語を連載するWebサイト『ラトニアサーガ』を始めたのもそのころ。会社が終わったあとの時間を使って、仲間たちと作っていきました。


―現在も働かれている広告代理店に進まれた理由を教えてください。
目標を一つずつ達成することでスキルも付き、良い作品を作ることにも自信がつきました。売り込みに行った出版社でも評価をしてもらえて。でも、実績のないものには投資できないと言われてしまう。「アニメにする」というゴールを実現するには何が足りないのかと考え、決定権のある人とつながりを作ることが必要だという“シナリオ”を描いたんです。それで、「僕が向こう側に行ってつながりを作ってくる」と仲間に宣言して、マスコミ業界に飛び込むことにしました。
―最初は派遣社員として入社されたそうですね。
今の自分だと、いきなり正社員で入ることは難しい。でも、派遣社員としてなら入れるチャンスがあるし、これまで身に付けてきた企画や編集、Web制作などのスキルにも自信がある。現場の最前線で働いて、会社に欠かせない歯車となって派遣社員、契約社員、正社員とステップアップするチャンスをつかもうと考えたんです。
―実際に入社から5年で正社員になられています。
環境に関する公共キャンペーンのプロジェクトに配属され、前職で得た知識を活かしながら最前線でがむしゃらに働き続けましたね。今僕が行っているソーシャルプロジェクトには、そこで得たエッセンスが投入されています。最前線で頑張ったからこそ成功体験ができ、こうなるという結果だけでなく、結果に持っていくまでのプロセスを描くことを学べたと思っています。
―日本ロマンチスト協会をはじめ数多くのソーシャルムーブメントを生み出していますが、人を巻き込んでいくポイントはどこにあるのでしょうか。
一般的にメディアというと、テレビや雑誌など多くの人に対して一元的に情報を届けられる媒体を考えますよね。でも、認知度を上げることと、人を動かすことは別。人のアクションを促すには、メディアの考え方を変えなくてはいけないんです。
僕はソーシャルムーブメントを生む手法として、「共感動力」というマーケティングメソッドを提唱しています。5人の人がいて、その5人の中で共通してパッと面白いと感じることがある。その共感をつなげて形にすると、メディアになるんです。
―一方的な発信ではなく、共感を吸い上げるということでしょうか。
そうですね。共感を探すことがプランニングの第一歩なんです。エコドライブを呼びかけるプロジェクトを担当したのですが、地球温暖化防止のためと正論を言われても人の心には響かない。じゃあ、共感は何だろうと探して行き着いたのが、車の運転を愛情表現に例えて伝えること。「渋滞中に見えるもの。男の器の大きさ」と言われたら、男性なら丁寧な運転をしなきゃと思うでしょ。共感をメディア化するとは、こういうことなんです。そして、共感動力を生む人のモチベーションの根っこにあるのが「モテたい」「ホメられたい」「ミトメられたい」の3つ。その感情をくすぐるプランニングをすることが大切なんです。


―波房さんはプランニングをするときにどんなことを大切にされていますか。
まず自分の中にちゃんと共感があって、続けられるのかということですね。ソーシャルムーブメントの肝となるのが、純度の高い熱源作り。そして、純度の高い熱源を作るためには自分が火種にならなくてはいけない。自分でも続けられないことを人にやりましょうと言っても伝わらないでしょ。でも、仕掛けようと思うあまりに自分が言われたらやるの?というプランニングをしている人が多いんです。
―いろんな仕事に共通して言えることですね。自分が良いと思っていないものを売ろうとしても、相手を買う気にさせられないとか。
どうやったら成功するかではなくて、どうやったら自分が楽しめるのか、続けられるのかを一生懸命考えたほうがいい。例えば、町興しでもそう。本業のある人たちが休みを割いてやるのだから、楽しいことじゃないと続かなくて失敗する。でも、本人たちが楽しめることを考えて、本気になってやっていると「面白そうなことをやっている」と注目されて、どんどん人が集まってくるんです。僕は純度の高い熱源として20人の本気を集められれば、町興しは成功すると考えています。そして、それが広がって100人の現象になればもう社会現象。トムソーヤのペンキ塗りの話と同じですよ。楽しそうにやっていると、やらせてくれと勝手に人が集まってくる。自分がやりたいからやっているという「勝手力」が必要なんです。
―挑戦をしない若者が増えたと言われますが、どう感じますか。
成功体験がないから、一歩を踏み出すことが難しいのでしょうね。本気で動くと現実がついてくるという成功体験を一度すれば、先へ進む力になると思います。
7月に熱中症予防のプロジェクトで「100万人のスイカーニバル」というスイカを食べることを呼びかけるキャンペーンを開催したのですが、企画段階では何一つ決まっていなかった。でも、本気で動き出したら取材が来て、協賛してくれる会社が決まってと現実が追いついてきたんです。必要なのは大胆な勇気。難しく考えずに、まずはやってみればいいんです。
―行動に意味を持たせなくてはと、動き出せずにいる人が多いと思います。
利己的なモチベーションでいい。自分が楽しいとか、あの子に好きになってほしいとか。僕が主催する熱源ラボの学生も商店街で買ったおかずで自分だけのお弁当を作る「日本街メシ協会」を企画したときに、商店街活性化のためと言っていて。「意味づけはいいから、自分たちが楽しむことからやってみろ」とアドバイスしました。楽しむからソーシャルムーブメントとして成功するし、結果として商店街の活性化につながっていく。
利己的なモチベーションで利他的なことをするのが大事なんです。これをずっと言い続けていたら、最近では熱源ラボの学生もアドバイスを求めて来る人に、「10年続けられる?」「自分が本当に共感してる?」と僕みたいに言っているんです(笑)。


―「プランナー」と言われることに違和感があると伺いましたが、ご自身ではどのような存在だとお考えですか?
自分の職業はクリエイターかと言われれば、YESでありNO。プランナーも、プロデューサーも同じで。そう考えたときに、僕の中のアイデンティティは「ストーリーテラー」なんです。ソーシャルムーブメントもストーリーテリングをしているんだと考えています。運動がこうなったらいい、人がこう動いてくれたら楽しいということを妄想して、その結末に辿り着くためのプランニングやクリエイティブを自分が中心になってやる。物語を作って、物語を生きている感じですね。そして、自分が死んでもストーリーテラーとして生きた証を残したい。それがアニメを作るという夢なんです。
―ストーリーテラーとしての今後の挑戦をお聞かせください。
アニメを作るという夢が絶対に叶うと信じて、一歩ずつゴールに向かって進んでいます。その一つとして今、『STORYTELLER』という電子書籍専門レーベルを自分たちで立ち上げ、『ラトニアサーガ』で連載している物語の配信も始めました。
時代に必要とされている共感動力をもとにしたソーシャルムーブメントを仕掛けていくことでストーリーテラーとして生き、ムーブメントをビジネスとしてマネタイズさせることでストーリーテラーとして死ぬ=アニメを作るという野望を成し遂げていきたいですね。