高橋 美樹インタビュー | Visionary Story | あなたのメンターに出会える!
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株式会社Be...代表取締役 高橋 美樹

visionary story 2012.11.11

 
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株式会社Be...代表取締役 高橋 美樹インタビュー

成長を、見届ける。

「教育ってね、今の自分を自分で超えるための手伝いをすることなんだよ」
人財育成株式会社Be...の代表取締役、高橋美樹。会員制クラブ業界のトップを走り続けるリゾートトラスト株式会社で華々しいキャリアを築いたにもかかわらず、あっさりと退職、起業した女傑の雰囲気は驚くほど軽やかだ。
会社の枠に囚われず「出会うすべての人の成長に関わりたい」と語り人にも自分にも真摯に向き合い続ける彼女が、部下であり上司でもある私たちの世代へ贈る言葉とは。

プロローグヒストリー

日々の歩みに迷った時、ふと顔を合わせたくなる人がいる。甘えを期待してではない。
会って話して別れた夜道で、相談したわけでもないのに「明日からまたがんばろう」とひとりごちてしまう、つまり自分の道を再確認して背中を押してもらえた気がするそんな人。

人財育成会社Be...代表取締役の高橋美樹はまさにそれだ。
実は彼女はosicaメンバーの一人の元上司でもある。辞めた職場の元上司。気軽に会うにはいささか高いハードルのように思えるが、事実そういう壁は無い。否定の予感が微塵もない、無意識にもたらされる信頼と安心。

日本の会員制クラブ業界のトップを誇るリゾートトラスト株式会社の営業部で前代未聞の女性事業部長に就任、そのポストに至るまでの華麗なるキャリアと嘱望された将来にあっさり幕を引き、起業の道を選んだ彼女の根底には、確固たる教育観があった。

「出会う人すべての成長に関わりたい」と語る彼女に気負いはなく、あるのは気持ちのいい丘にある灯台のような清々しさだけだ。世代にもカテゴリーにも囚われない、ただ目の前の人に真摯に向き合う彼女から溢れる明るいエネルギーが、小春日和の陽ざしのようにそっとあなたを温めたなら、進む一歩は今日より少し大きいはずだ。

が語る「プロローグヒストリー」
が語る「人に惹かれて、人に伝える」

人に惹かれて、人に伝える

―前職のリゾートトラストは不要不急の高級リゾート会員権を販売する、かなり男性色の強い会社だったかと思います。なぜそこを選んだのでしょう?
総合職で男女公平に実力を評価してくれる会社に行きたくて。でも一番の決め手は私の最終面接かな。30代前半の若くてスマートな人が「東京支社長代行」を名乗ったんだよね。年功序列で上がってきた人じゃないことは明らかで、会社方針は謳い文句じゃないって感じたの。その象徴みたいな人が私を評価してくれた時に、何が何でもこの人について行きたい!と思ったんだ。
―就職後はいかがでしたか?社風やバブル崩壊後の経済情勢を考えると厳しい局面もあったかと思います。
男性だらけの社内だから却って大切にしてもらえていたな。でも一旦営業に出ると「ばかだねぇ」って必ず言われた。バブルの時に遊び呆けて不勉強だから景気も知らなくて「リゾート」の楽しそうな響きに惹かれたんでしょう?って。
―辛辣ですね。営業のたびに投げかけられる言葉に、そのほうが正しいのかも…と迷うことは?
なかった(笑)。外の人より社内の人の言葉のほうが説得力あったもん。だからお客さんにそう言われると、何で自分がこの会社にいるのか、会社のどこが好きなのかを時間をかけて伝えたな。当時はただ私の思いと会社を知ってもらっただけだけど、振り返るとその認知が信頼を勝ち得て結果的に数字を生んでいたんだよね。
はじめはほんと、全然売れなかったよ(笑)

自分のサイクルで取り組む

―その後、主任、係長、課長を経験。27歳という異例の若さで部長になりました。年齢がネックになることはありましたか?
年齢よりも性別かな。女性と男性じゃ営業のやり方も違うんだよね。だから自分の経験をベースにした方法を伝えてもピンと来ない。違う思考回路の人たちの数字を底上げするように教育するっていうのは、ものすごく大変だったよ。
―当時印象的だったエピソードはありますか?
部長になった時に大失敗しちゃって。話しを聞いてくれない上司が多いことを省みて、私は徹底的に聞くようにしたんだよね。そしたら何と、男の子たちが全員甘えた(笑)。話しを聞いてくれる年上の女性には甘えちゃうっていう男性の習性を知らなかったんだよね。優秀な子が多い配慮ある組織構成だったのにみんな骨抜きみたいになっちゃって。
だーめだこりゃ、って(笑)。
―……骨抜きですか(笑)。その課題をどうやって解決したのでしょう?
経験として学んだのは「教えない」ってことだったかな。緩衝役とか刺激役にはなるけど、自分で考えてもらうことが最終的には本人の「自分流」をつくって結果を出せるようになるから。そういう自分のスタンスを持つのに、やっぱり3年くらいかかったな。 キャリアを歩むときはいつもそうなんだけど、はじめの1年は大失敗、2年目に8勝7敗で勝ち越して3年目にイメージと結果がだいたい一致してくる。
私はいつもそういう感じ。自分のサイクルが分かってからは、失敗してもジタバタしなくなったよね。

が語る「自分のサイクルで取り組む」
が語る「人の生まれ持った、平等なもの」

人の生まれ持った、平等なもの

―美樹さんの思う「優秀なビジネスマン」ってどんな人でしょう?上司の言わんとすることを察して早いレスポンスを返せる人ですか?
レスポンスが早い子は楽だけどね、私が優秀だなって思うのは「素」がいい子。これは教育とかでなかなか後付けできない部分で、「素」っていうのは「素直なこと」と「前向きなこと」と「プラス思考なこと」。優秀だなあって思う子はこの3つが揃っているな。
でもこれ実は誰でも持っているものなんだよね。
赤ちゃんってそうでしょう?だから人間が最初に平等に与えられて持っているものを磨いてる、磨く努力をしているってことがすごく重要で、これが「優秀」の素になるんじゃないかな。
―現場ではその「素」を磨かずにきた人も育てなければならない場面もあったと思いますが…
うん。でもそこは企業の度量によるところが大きかったな。大きい会社だから素が曇っている人も磨いて育てることができたけど、今の私の規模の会社じゃ難しい。
経営者の目線って自分の会社が一番大事で、会社がなかったら従業員もなにもないんだよね。会社を守って事業のビジョンを実現していくために「人財」が必要なわけでしょう?そのために最良の人を採るのが企業としては良いわけで。
そういう意味で今の私は、素が良くて伸びしろのある人を一緒に育てていくようにしているな。

どこからでも見える、灯台のような存在になりたい

―離職率が高いとも言われていた前社で、美樹さんの部署は定着率がずば抜けていました。その理由を教えてください。
これはよく考えたから明確に答えられるな(笑)。理由は2つで、ひとつは「自由」にしたこと。売りたいなら売ればいいし、休みたいなら休めばいいっていうふうな。でも放ったらかしにはしないでちゃんと教育を提供する。もうひとつは「組織の求心力」をつくること。カリスマのリーダーじゃなくてね。リーダーに求心力があると、その人が抜けた時に組織が弱くなるから、「あそこの空気はいいよね」っていう場をつくる。
そうすると情報も人財も集まってくるんだよね。
―事業部長として優秀な成績を築き、出世街道を邁進するかと思いきや、あっさりと退職、起業の道を歩みました。なぜでしょう?
自分のやりたいことは前社の中でもきっとやれただろうけど、歴史も文化もある大好きな会社に一石を投じて、何か変わるのかな?と思って。そんなに簡単に変わる会社にはむしろ違和感があるし、でも他の企業に勤める気にもならないし。だから起業したの。
それで何がしたいって人を育てたかった。
自分の部下が成長してくれるのは単純に嬉しかったけど、会社を離れた元部下に何かあった時も少しでも力になりたくて。会社に居ることで元部下と繋がることができないのなら、私にとっては出世も立場も意味がないと思ったんだ。
どこからでも見える「ここにいるよ」って光る灯台みたいになりたかったんだよね。

が語る「どこからでも見える、灯台のような存在になりたい」
が語る「テーマ型とゴール型」

テーマ型とゴール型

―退職後、2ヶ月を経て起業しました。滑り出しはいかがでしたか?
起業はしたけど実質フリーランスのような働き方になって、しかもやたら忙しい!(笑)。そもそも組織をつくりたかったのにその時間がなくて、悶々としながら忙殺されてた時に震災があったの。それがひとつの転機になって。震災直後、急に仕事の間があいたときにたまたま中国の話しがきたの。
―中国進出は狙ったものではなかったのですね。
私ね、いつも狙えないの(笑)。
これするために、ああやりたい!というのがなくて、ご縁があって導かれるような、常にテーマ型。
―テーマ型?
そう。目標がある人のほうが表立って取り上げられるじゃない?私はそういう人と比べると「目標」がないように思えて悩んだ時期があったんだよね。明確な結果が求められる場所にいたときはなおさら。でも私にはそういうのがどうしても無くて。でもね、目標の持ち方として「ゴール型」の人と「テーマ型」の人がいるんだよね。
「テーマ型」の人は「なりたい姿」は明確に持っているけどそこに至るプロセスに執着せずに、自分の置かれた環境から理想に近づく方法を考えるの。「ゴール型」の人はなりたい姿に至るプロセスを組み立てることそのものに楽しみを覚えるんだよね。課題をクリアするとどうなるかが見えるほうが頑張れる。
これは思考回路の違いだから良し悪しは無いけど、20代の若いうちは「テーマ型」でいられるとバランス感覚を磨きやすいかもね。

出てみて初めて見えるもの

―中国での経験を踏まえて、今の若い世代に感じることはありますか。
世界に出ている子と出てない子では、今後すごく差が開いてくると思う。このあいだの反日デモの報道ひとつとっても、海外を知っている子とそうじゃない子は受け取り方が大きく違うんじゃないかな。
中国はね、富裕層と貧困層がまだまだ混在しているんだよね。だから不公平感も持ちやすいし、読み書きができない子は身近な人達の噂話が知識になって、極端に限られた情報の中での生活を強いられている。そういうことを知らない、どこでも日本と同じ感覚で物事を捉えてしまう子はどんどん取り残されていくんじゃないかな。
私もどっぷり日本につかっていて、すごく狭い視野の中で生きてきたのね。でも外に出ないとそのことにも気づけなかった。だから子どもができたら必ず海外、それもなるべく苦労しそうなところで生活をさせようと思っているの。語学目的だけじゃなくてね。
―海外での生活は先ほどの3つの「素」を磨かざるを得ないですよね。
そうそう!ほんとにそう。
素直で、前向で、プラス思考でなければ居られない環境を与えるのが教育の基本スタイルだと思うんだよね。
そういう場所で素を磨き続けてきた子って年齢に関係なく尊敬できるし、キラキラしているし、魅力的なんだよ。

が語る「出てみて初めて見えるもの」
が語る「上の世代へ。若い世代へ。」

上の世代へ。若い世代へ。

―最近の世代は安定志向の草食系とも言われていますが……
教育の観点で言うと、草食系とか肉食系とかのカテゴライズは意味がなくて。今のその人から成長することを手伝うのが教育であって、比べるものでも世代で括るものでもない。親が「この子はゆとり世代だからこれでいい」ではなく「その子らしく育てばいい」と思うのと同じだよ。人財はどの子も「今」を超えるように最大限応援して、信じて、育てる。それが上に立つ者の義務で責任だと思う。
時代ごとに世代のカラーは確かにあるけど、上の世代はそれを踏まえてどうコミュニケーションをとるか、が焦点になるんじゃない?
―そういう若い世代に向けて助言をいただけますか?
「迷い」を怖がらないこと。
「早く決めなきゃ」と焦るけど、迷うことが重要なんだから。迷いながらも自分を信じて目の前のことを一生懸命やることで何か見えるんだから、迷うことから逃れようとすると面白くなくなるよね。人生が。
―迷いを抜ける足がかりになるものがあると良いな、と思います。
実在しなくても、「架空で理想のスーパーマン」をつくったらどう?
素晴らしい人の素晴らしい部分を集めて煮詰めて理想像をつくる。実はそれは未来の自分の姿なんだけど、迷った時に「その理想像ならきっとこう言う」っていうセルフコミュニケーションが取れるようになると思いを実現化しやすいんじゃないかな。悩んで解決の方法を考えることは、眠っている自分の力を起こすことなんだから。